「うちは家族の仲がいいから大丈夫。」「うちは財産が少ないから…」と言われる方もいらっしゃるでしょう。 しかし最近では、財産の多寡にかかわらず、相続時の遺産分割をめぐるトラブルが増えています。いざとなると、たとえ小額であってもできるだけ多くもらいたいと思うのは、ごく自然な感情なのかもしれません。 遺産が住んでいた家と土地だけでも、各相続人が法律で定められた相続分を主張して、配偶者の住まいでもある家と土地を売らなければならないというようなことも多いようです。 確かに争わない相続もありますが、相続が争続になることも少なからずあります。しかし、その争いは未然に防ぐことができるものなのです。
「遺言は法律に定められた相続分より優先される」という大原則があります。そして最後の言葉である遺言は残されたものにとって非常に重みのあるものであり、その内容を尊重するのが人の心であります。遺言によって意思が明確にされていれば、テレビドラマで見かけるような相続争いを防ぐことが出来るのです。 遺言というと亡くなる直前にするイメージがありますが、実は亡くなる直前のような判断能力が低下した状態で書いた遺言は無効になるケースもあります。ですから、遺言を書くのに早すぎるということはないのです。むしろ元気な今のうちに作成する必要があるのです。しかも遺言書は何度も書き直すことが出来るものなので、気が変わった時には気軽に変更をすればいいのです。 財産をどのように管理し、そして整理し、相続につなげるか、今後の方向をはっきりさせるために、また、家族の仲が良い方にこそ、その感謝の気持ちを込めて遺言を書いておくことをおすすめします。
遺言書には主に3つの種類があります。厳密にはもっとあるのですが、遺言書として通常利用されるのが次の3つです。
費用もかからず一番簡単に作成できる遺言書です。
作成方法は遺言者が全文、日付、氏名を書いて、押印すれば完成です。全文直筆で書かなければならないので、パソコンやワープロで作成したものは無効です。
代筆もいけません。ただし握力が弱っている場合に、他人に手を支えられて補助のもとに書いた場合は有効とされています。
直筆証書遺言では様式不備のため有効か無効かの判断が微妙なケースがあり、争われるケースも多くあります。手軽でいつでもどこでも書けるため、色々な書き方をする人がいるのが原因なのでしょう。
また、せっかく有効な遺言書を作っても、遺言書を紛失してしまう可能性もあります。さらに偽造や変造、隠匿されてしまう可能性も否定できません。 さらに直筆証書遺言の場合は家庭裁判所の検認手続きが必要となるためすぐに相続手続きを行うことが出来ません。
公正証書遺言は各地の公証役場で作成します。専門家である公証人の手を経て作成するため無効になることがほとんどなく、その確実性ゆえ他界後の家庭裁判所の検認手続きが不要となります。つまり他界後すぐに相続手続くを行うことができます。さらに公正証書の原本は公証役場に保管されるので、紛失や改ざんの心配もありません。
このようにメリットも多くデメリットも少ないため一番お勧めの方法といえます。
目的価格 | 手数料 |
---|---|
100万円まで | 16,000円 |
200万円まで | 18,000円 |
500万円まで | 22,000円 |
1,000万円まで | 28,000円 |
3,000万円まで | 34,000円 |
5,000万円まで | 40,000円 |
1億円まで | 43,000円 |
3億円まで、5,000万円ごとに13,000円加算 | |
10億円まで、5,000万円ごとに11,000円加算 | |
10億円超は、5,000万円ごとに8,000円加算 |
作成方法は、あらかじめ遺言書の案を公証役場で打ち合わせしておき、後日、証人二人(未成年者、推定相続人等の利害関係者は不可)を連れ公証役場に出向き、 公証人が作成した遺言書を閲覧し、問題がなければ遺言者、証人、公証人が署名押印をします。
料金は通常の1.5倍くらいかかってしまいますが公証人の出張サービスもあります。
公正証書遺言にする際は、事前に公証役場に連絡をし持ち物を確認しましょう。
>> 全国の公証役場一覧
作成方法としては、まずワープロや代筆でかまわないので遺言書本文を作成します。日付は不要ですが署名押印は必ず必要になります。
本文が完成したら、それを封筒に入れ、本文に用いたのと同じ印鑑で封印します。そしてこれを持って、証人2人と公証役場に出向き提出します。それに遺言者、証人、公証人が署名押印したら完成です。
このように証人と公証人は封印された遺言書しか見ませんので、遺言書の内容を秘密にしておけます。
しかし、直筆証書と同様に様式不備のため無効になることや、他界後に裁判所の検認手続きが必要になります。そのうえ費用もかかるため実際にはほとんど使われていません。
子の認知
婚姻関係にない相手との子の親子関係を認めること。これによりその子に相続権が生じる。
また、胎児の認知をすることもできる。
後見人、後見監督人の指定
相続人に親権者のいない未成年者がいる場合、未成年後見人の指定をすることができる。
さらに後見人を監督する後見監督人の指定が出来る。
財産を法定相続人以外にゆずること(遺贈)
内縁関係の人や世話になった人に財産をゆずることができる。
このように相続権のない人に相続財産をゆずるには、遺言書にその旨を記載する必要があります。
財産の寄付
財産を各種団体に寄付することができる。
各相続人の相続分を指定することができる
各相続人の法定相続分は民法で決められていますが、遺言でこの割合を変更することができます。法定相続分が配偶者1/2、子1/2のところを、配偶者3/5、子2/5などとすることができます。
遺産分割の方法を指定することができる
妻に家を相続させ、子には畑を相続させるなどと具体的な分割方法を指定することができます。
遺産分割を禁止することができる
相続開始から5年以内であれば、財産の分割を禁止することができます。
相続人相互の担保責任の指定ができる
各相続人は、他の相続人に対して売主と同じく、その相続分に応じて担保する責任を負っています。この規定を遺言によって軽減したり、加重したりすることができます。
特別受益の持ち戻しの免除ができる
故人から住宅資金の援助など(特別受益)を受けていた相続人は、遺産分割時に他の相続人との公平性を保つため、相続分が減らされます。しかし遺言で援助のことを考慮に入れずに、遺産分割を行うようにさせることができます。
相続人の廃除や廃除の取り消しができる
遺言者に対して生前に虐待、侮辱や著しい非行があった人の相続権を奪うのが廃除です。ただしこれは相続権を奪うという重大な手続きですので、他界後に家庭裁判所で認められた場合にのみ排除の効力が生じます。
遺言執行者の指定ができる
遺言内容を実現するために必要な名義変更や登記手続きをおこなう者を指定することができます。
遺言内容をスムーズに実現させるためにも、指定しておくことをお勧めします。特に認知と廃除の場合は必ず必要となります。
遺贈減殺方法の指定ができる
相続人の遺留分が侵害された場合には遺留分減殺請求ができます。そして遺留分減殺請求をする順番は法律により決まっていますが、遺言によりその順番を変更することができます。
遺言書を作成する際には書式の他にも注意すべきことがあります。
それは
法律では、遺言書によって全部の財産を自由に処分することを制限しています。例えば次男に全財産を相続させるという遺言書が遺された場合には、他の相続人には何の権利もないのでしょうか?これではあまりにも他の相続人が可哀想ということで、遺留分という権利を保障しています。この権利を主張することを遺留分減殺請求といいます。
ここで勘違いしないでいただきたいのは、遺留分を侵害する遺言書を作ることはできるということです。なぜなら遺留分減殺請求をするかどうかは、各相続人の判断に委ねられているからです。
また、遺留分減殺請求をするには期限が定められており、相続の開始および遺留分を侵害されたことを知った時から1年となっています。
もし遺留分を侵害されたことを知らなかった場合でも、故人の他界時から10年を経過すると同じく時効によって消滅します。
また、遺留分減殺請求をする順番は決まっており、遺贈、直近の贈与、直近の前の贈与…という順に行います。
遺留分権利者 | 遺留分割合 |
---|---|
配偶者のみ | 全財産の1/2 |
子のみ | 全財産の1/2 |
配偶者と子 | 配偶者 全財産の1/4 |
子 全財産の1/4 | |
配偶者と父母 | 配偶者 全財産の1/3 |
父母 全財産の1/6 | |
父母のみ | 全財産の1/3 |
兄弟姉妹 | なし |
遺留分を主張できるのは法定相続人のみです。
例えば被相続人に配偶者、子、父がいたとします。この場合は配偶者と子が法定相続人になるため、父は財産がもらえなくても遺留分減殺請求をする ことはできません。
遺言書は遺言者の死後、発見されて遺言の内容が実行されなければ意味がありません。そのためには、保管方法にも工夫が必要です。
直筆証書遺言や秘密証書遺言は銀行の貸し金庫に保管したり、行政書士などの信頼できる第三者に保管を依頼するなどしましょう。
公正証書遺言の場合は、原本が公証役場に保管されているので改ざんや紛失のおそれはありませんが、やはり遺言書の存在自体があきらかにならなきれば、死後、遺族の手に渡らないおそれがあります。本人の持っている正本や謄本を発見しやすい場所に保管しておいたり、公正証書遺言の存在を家族に知らせておくなどしましょう。正本を行政書士など、信頼できる人に預ける方法もあります。
遺言でしか遺言執行者を指定できません。遺言により指定された遺言執行者は、遺言を執行するための遺産の管理や処分に対するいっさいの権利と義務を持ちます。相続人などの利害関係者は勝手に遺産を処分するなど、執行を妨げることはできません。よって、遺言の内容を確実に実現することができます。ちなみに、子供の認知、相続人の廃除と廃除の取り消しに関しては、必ず遺言執行者が必要です。
遺言執行者は未成年者および破産者以外は誰でもなれます。相続人でもなれます。ただし、いざ相続が始まった時の負担を考えると、行政書士などの専門家に依頼したほうがいいでしょう。
相続税が課税されるのは全体の5%程度といわれています。自分の財産は相続税が課税されるのか、されないのかを大雑把でもいいので把握しておきましょう。
相続財産の総額が5000万円+(1000万円×法定相続人の人数)以内であれば相続税は課税されません。例えば法定相続人が3人いれば、8000万円まで非課税となります。